世界中の肉が揃う、由緒ある肉売り場
肉を買おう。
そんな時のファーストチョイスは、麻布十番の日進ワールドデリカテッセン。
なんてったって、あんな肉が欲しい、こんな肉が欲しい、って願いが全部叶うんですよ。
日進ワールドデリカテッセンを経営する日進畜産工業株式会社は、大正5年の創業から今年で104年の老舗です。
非常に長い歴史を持つ、由緒正しいハム会社なのです。
そのスーパーマーケット部門である日進ワールドデリカテッセンは、平成10年にオープン。「世界のお客様に、世界の食品をお届けする」を基本コンセプトに、独自の品揃えをしています。
大使館関係者など近辺で暮らす外国人のお客様も多く、他の店では手に入りにくい世界中の肉や食品を求めて足繁く通うスーパーマーケットなのです。
ただでさえ強力な店なのに、2月13日に拡大リニューアルを完成させ、グランドオープンとなります。
その上、ここには肉のキャリア50年以上の伝説の肉職人がいる! という噂を聞きつけたら、もう行くしかないじゃないですか。
充実しまくった肉売り場に期待が高まる
その肉売り場は店の奥の方にあります。
ショーケースには色々な珍しい肉が並んでいます。ワニ、ダチョウなども普段から普通にあります。
シーズンオフの七面鳥は70%オフになっていました。
写真だとわかりにくいと思いますが、手前の七面鳥は約10kgです! 巨大です。
日本だとこのサイズが入るオーブンがある家はほとんどないのでは?
一番奥にはずらりと肉の並んだショーケースが。
こちらでは、カットした肉の他、塊肉から欲しい重量でカットしてもらうこともできます。
とにかく牛肉の種類が豊富です。
産地も価格も色々ある中から選べます。
外国産の牛肉が多いのですが、和牛もあります。
「この道50年」伝説の肉職人の指南
さて、この売り場にいる店員さんはみなさん肉のプロフェッショナルなのですが、真打はこちら。
牧野隆夫さん(日進畜産工業株式会社 常務取締役)です。
優しい微笑みに包まれた「只者じゃない」感がすごいです。
──牧野さんは日本初の南極観測船「宗谷」に肉を届けた人物だという噂も伺っていますが。
牧野さん:(笑)。それは本当に荷物を積みに行っただけですよ。
──でも、その頃はもう肉の仕事をしてらっしゃったんですよね? 何年頃からですか?
牧野さん:肉の仕事は(昭和)44年からですね。
──50年以上ですね! なんと半世紀ですね。卸売りなどにも関わったことはあるのでしょうか?
牧野さん:卸は芝浦の中央卸売市場食肉市場に5年いたのかな。あとはデパートとか。ここに来てからは20年くらい。
──この売り場は牛肉が大変充実しているのですが、牧野さんは牛肉が専門なのでしょうか?
牧野さん:お客さんの要望が多いので中心は牛です。でも豚も鶏もみんなやってます。
ローストビーフ用の肉はこう選べ
さて、今回は伝説の肉職人・牧野さんにローストビーフ用とステーキ用の肉の選び方を教えていただこうと思っているのです。
──まずは、ローストビーフを自分で焼く時の肉の選び方を教えてください。
牧野さん:はいはい。ではわかりやすいように塊の肉で説明するね。
売り場の奥から、カットする前の塊の肉を出してきてくれました。
牧野さん:はい。これがモモ肉のブロックね。うちはこういう輸入のモモ肉のブロックなんかはキロ売りになるの。
──日本の一般的なスーパーだと、どうしても小さいカットになってしまいますよね。でも、ローストビーフにするならもう少し大きな塊で買いたいという需要があると思うんです。
そういう時に、この店でどういう肉を選んで、どのようにカットしてもらえば良いかというのを教えていただきたいです。
牧野さん:大きい肉っていうのは、1キロくらいの解釈でいいのかな?
──はい。そのくらいです。
牧野さん:モモ肉の中にも4種類あって、ランプとトップサイドとナックルとイチボ。一番こっちがランプ。
*肉の部位の呼称は、輸入元の国と日本とは異なっているのですが、日進ワールドデリカテッセンでの表記は輸入元のもので、牧野さんも主に輸入元の呼称を使っています。また、同じ部位でも複数の呼称があります。
牧野さん:これはトップサイドといってウチモモ。
牧野さん:ここにかぶさっている白い部分がカブリ。ここはちょっとスジが多い。この白いところはスジだから。この部分は普通にローストビーフにしても硬いんです。外国の方はローストビーフを何時間もかけて焼くからスジも柔らかくなるんですが。
この塊肉から、ローストビーフにちょうど良い大きさ(1〜2キロ程度)にカットしたものも売り場に並んでいます。
先ほどお話に出たランプ。
価格は意外にもお手頃です。100グラム139円なら1キロ買っても1,390円です。塊によって大きさは違うので、希望を伝えてみましょう。塊から切り出してもらうこともできます。
ナックル。
トップサイド。
──これは丸々買ってローストビーフにすれば良い感じですか?
牧野さん:(ショーケースを指差しながら)そう。あの一番奥にある肉が、スジが少ない肉なのでローストビーフにした時に割れにくくて使いやすいですよ。
──見た目ではちょっとわかりにくいですね。では、慣れていない人は売り場の方にアドバイスを頼んだ方がいいですね。
牧野さん:そうですね。ただ、スジがあるから悪い肉というわけじゃないんです。外国の方は時間をかけて焼いて、スジまで柔らかくして食べるんです。「スジが多い=調理しづらい」ではないため、うちはスジを引いてきれいにする日本式の販売と違うわけですよ。
▲この肉の真ん中の白い部分がスジです
──じゃあ、わざとスジはつけたままなんですね。それがむしろおいしい、とかもあるんですか?
牧野さん:そう。ゼラチン(コラーゲン)だからね。だから、そういうのも全然違うよ。やはり肉文化の国の人たちはわかってるので。
──ローストビーフのおいしい焼き方も教えていただけますか?
牧野さん:日本のお客様は220~240度で焼かれる方が多いようですね。でも、うちでは160度で約50分から1時間、焦げ目をつけないでゆっくり焼くことをおススメしています。
──そのくらいだとスジのない肉を選んだ方が良いのですね。では、最初にフライパンで焼いたりする必要はないんですか?
牧野さん:フライパンで焼くとフライパンが熱くなっていますよね。鉄板の温度が高いので焼きすぎちゃう。よくレストランでハンバーグにフライパンで焦げ目つけてオーブンに入れるじゃない。あれはオーブンの温度が低いんです。そういう焼き方をしないと、1つのもので焼こうとすると焦げてしまう。
──160度だと長く焼いても硬くはならないんですか?
牧野さん:硬くはならないけど、これ(上記のオーストラリア産モモ肉)は牧草を飼料にした(グラスフェッド)肉だから、飼料に穀物が入っている肉よりも元々ある程度硬いわけ。
──外国の方の、低温で時間をかける焼き方だと何度で何時間くらいなんでしょう?
牧野さん:100度以下の人もいるね。それで1〜2時間とか。外で4時間とか5時間とかやってる人もいますね。
──それだとスジまで柔らかくなるんですね。時間がある時にやってみたいです。
牧野さん:あと、アンガスビーフはわりと柔らかい。牛が食べていた餌に穀物が入っている(グレインフェッド)からなんです。
牧野さん:こういうのはみんな穀物入っていますよ。
──「味わい葡萄牛」という表記のものですね。では、柔らかいのが好みの人は穀物を食べて育った牛を選ぶといいんですね。
とにかく、肉の種類が多くて価格帯も幅広いので、店員さんに相談してみるのが良いでしょう。
と、ここで同行の広報の門別さんからご意見が。
門別さん:個人的にはこのヒレ肉がおすすめです。 この安さなのに、ステーキにしても柔らかくておいしいんですよ。 値段は時期によって違うんですが、1枚500円くらいでおいしいヒレステーキが食べられますよ!
たしかに。ヒレステーキ、自分で焼くと店よりかなり格安で食べられますね!
では、ステーキについてもうかがってみましょう。
おいしいステーキはこう選べ、こう焼け
ショーケースには見るからにおいしそうなステーキ肉も並んでいます。
──ステーキ用の肉の選び方も教えてください。
牧野さん:肉は焼いたことありますか?
──わりと焼いて食べています。けっこう分厚いものを買っています。2.5センチくらいの。安いアメリカ牛とかで。
普通のスーパーのようにパックした肉も売っています。
牧野さん:それはこういうのでしょ、肩ロース、チャックアイロール。
──そうです。こういう風にカットしてある、ごく庶民的な肉を買う場合はどこに注目すべきですか? 柔らかいのが好きだったらこれを選ぶとか。
牧野さん:こういう脂が入っている方が肉は柔らかい。これは外国でいう最高のブランド、プライムビーフ。こういう脂は日本の人は嫌うから買わないよね。だけどランクは一番いい。
──脂があると、まわりの肉も柔らかいんですか。
牧野さん:そうそう、全然違う、薄く切ってもね。こういう肉は柔らかい。肉の割合で、赤身と脂の何対何が一番柔らかいかっていったら、80対20。
──脂が20ですね。
牧野さん:そう。赤身が80、それが人間が食べて一番おいしく柔らかく感じる。
和牛のこんなに霜降りのものもあります。これはもうとろけるように柔らかいはず。
しかし、お値段も立派。
それに最近は、もっと赤身のうまみを感じられるような肉を食べたいのです。
そこで、牧野さんにもっとお手頃で家庭で焼きやすいステーキ肉を選んでいただきました。
それが、こちら。
アメリカ産のリブアイロール(リブロース)です。
牧野さん:これは穀物、特にとうもろこしを飼料としてたくさん食べた牛の肉なので柔らかいですよ。
──焼き方はどうすれば良いのでしょう?
牧野さん:低温調理。塩、こしょうをして、常温に戻さずそのまま焼く。
──冷蔵庫から出してすぐでも大丈夫なんですね。
牧野さん:そう。100度以下で焼く人もいるし、2時間とか3時間、あとキッチン用のジッパー付き保存袋を使って湯煎する方法だとか。いろいろあるんで一概には言えないんだけど。
──低温調理は最近流行ってますね。
牧野さん:あと、アルミホイルを巻いて、さらにタオルで巻いて保温するやり方とかもよく聞くでしょ。フライパンで焼いて、表面を焦がして、アルミホイルで巻いて、さらにタオルで巻いて何分か置くと、中にじんわり熱が通ってくる。そういう焼き方の人もいますね。
湯煎のやり方だと、フライパンで焼いてジッパー付き保存袋に入れてお湯の中に入れて、温度は60〜70度、時間は30〜40分です。炊飯器の保温って、温度が何度かってわかります?
──70度くらいですか?
牧野さん:加熱が切れる寸前が60度です。温度が上がる最高のところが70度。フライパンで焼くよりも、ホットプレートの方が楽かも、温度が全部書いてあるから。うちで、やってあげてもいいけどね。そこにホットプレートあるから。
そういうわけで、牧野さんが実際に焼いて教えてくれることになりました。
1.5センチくらいの厚さにカット。
片面に塩、こしょう。
牧野さん:100度のホットプレートで10分程度、じっくり片面を焼きます。片面で焦げる寸前に返しちゃうの、裏面にして蓋をして火を切っちゃうの。で、ちょっと蒸す。
──ホットプレートでも蓋した方がいいですか?
牧野さん:そうだね、しない人もいるけど、僕は蓋する。焦がさない。焦がした方が良ければ火を強くして、それだったら焦げ目がついたらひっくり返して、スイッチ切っちゃって蓋をして蒸すのがいい。それだと160度だとしたら5〜6分かな?
すごくさりげない感じで肉の様子を見ています。牧野さんはタイマーで時間を計っていませんでした。目で見て焼き具合を見極めています。この時の裏面に返すまでの時間は8分くらいでした。
焼き上がりました。 焦げ目がないので一見地味な感じに見えます。
中がいわゆるローズ色、きれいです。
食べやすいように小さめに切ってくれました。
さて、いただいてみました。
これはたしかに、すべてがちょうど良い塩梅です。
程よい柔らかさと歯ごたえ、ジューシーな肉のうまみが感じられ、脂の甘みも良い感じで、「ああ、おいしい肉を食べた」という満足感がありました。
このような感じに家で自分でも焼ければ大変お得です。
そこで、牧野さんに選んでいただいた肉を自分でも焼いてみました。
自宅で低温焼きステーキに挑戦してみた
牧野さん:家でも焼いてみてね。さて、上手く焼けるかな?
と、牧野さんは心配そうでしたが、おいしいステーキを食べるためなのでがんばりましたよ。
選んでいただいたのは、こちらの2種類。まずは先ほど牧野さんが焼いてくれたのと同じ、アメリカ産リブアイロール(リブロース)。これは飼料に穀物が入っているものです。つまり柔らかめ。
もう1種類はニュージランド産キューブロール(リブロース)。違いがわかりやすいように、飼料が牧草だけのもの(グラスフェッド )の中から選んでいただきました。
ちなみに、アメリカはリブアイロール、ニュージーランドはキューブロールと呼びますが、これは原産国の表記で、どちらも日本ではリブロースです。
まずは、アメリカ産リブアイロール。
厚さは牧野さんが焼いたのと同じくらい、1.5センチくらいです。
牧野さんは100度でしたが、焦げ目をつけるなら160度くらいもあり、ということなので160度にしてみました。
いつも自分でステーキを焼く時は、以前にテキサス在住の知人に教わって以来、ニンニクとローズマリーを入れることにしているので、今回も入れてみました。
塩、こしょうをしました。
ホットプレートが160度に温まったところで肉を乗せます。
そろそろいいかな〜、というところでひっくり返しました。焦げ目はついていませんでした……。でも、まあ、良い感じかなと思ったので、
蓋をして、ホットプレートの電源を切って余熱だけで5分。
なかなか良い感じ、とは思ったものの、もう少し保温した方が良いのではと思い……
アルミホイルで包みました。そしてまた5分。余熱でじんわりと火を通します。
なぜ余熱で焼くとおいしいかというと、肉のタンパク質には主に、ミオシン、アクチン、コラーゲンという3種類があります。ミオシンは50度以上で変成し「火が通った」状態に、アクチンは66度以上で変成し「硬く」なります。
そのため、美味しく仕上げるには「火が通り、かつ硬くない」状態を導く50度以上66度未満をキープする必要があるのです。
アルミホイルで包んで余熱を利用することで、この適温にしやすくなるのです。
さて切ってみましょう。
良い色!
盛り付けてディナーにしました。
皿の色がちょっと地味に見えますが、まあ良いでしょう。
ああ、良いですねえ。見るからにおいしそうですが、見た目以上においしいです。
ステーキというよりローストビーフのような感覚です。火の通り具合もちょうど良いのではないでしょうか。
ジュージュー熱々ではなく、ほの温かいので、肉のうまみがしっかり感じられます。そして柔らかくジューシーです。
そして、次はニュージーランド産キューブロール。こちらの厚みは2センチほど。
牧野さんによるとこちらは、「さらに低温で時間を長く」とのこと。
うちのホットプレートは保温と160度の間に目盛りがありませんが、おおよそ100度くらいのところに合わせてみました。
8分焼いてひっくり返しました。さっきの肉よりも火が通っていないように見えました。今度は蓋をして、ホットプレートの電源を切って余熱だけで8分。
やはりアルミホイルに包んでみます。
今度は少しゆっくりと、10分保温しました。
切ってみたら、さっきよりもレアな感じがあります。
しかし、とても肉肉しくおいしそうです。
こちらもディナープレートに。
なるほど。火の通りが少ない上に、グラスフェッドなので、先ほどの肉よりも歯ごたえがあります。 もう少し長く火を入れても良かったかもしれません。
いや、でも良い肉感です。肉を食べているという荒々しさがあります。見ての通り、ジューシーさは抜群です。
牧野先生! (先生と呼ばせていただく)、いかがでしょうか?
これからも、肉焼き道を極めるべく精進していこうと思います。
牧野さん、門別さん、ありがとうございました!
そして、2月13日にリニューアルグランドオープンの日進ワールドデリカテッセン、通わずにはいられないです。
お店情報
日進ワールドデリカテッセン
住所:東京都港区東麻布2-32-13
電話番号03-3583-4586
営業時間:8:30~21:00
定休日:年中無休
www.nissin-world-delicatessen.jp
書いた人:工藤真衣子
カメラマン。美しい人が好きなのでグラビア、音楽が好きなのでライブ写真、映画やドラマが好きなのでスチール写真、美味しい食べ物が好きなのでグルメ写真。雑誌、WEBなど各メディアで活動中。趣味は美味しい料理を作って食べること。子供写真スタジオ「アトリーチェ」の経営もしております。
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February 19, 2020 at 02:30PM
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