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Monday, March 2, 2020

フランスの肉はなぜうまいのか ──「ル・セヴェロ・パリ」創業者に訊くヨーロッパの肉事情 - GQ Japan

うまい牛肉

2月21日、パリのブラッスリー「ル・セヴェロ・パリ」の海外姉妹店である東京・中目黒のフレンチレストラン「セラフェ」で、ディナーイベントが開催された。ル・セヴェロ・パリの創業者であるウィリアム・ベルネさんが、フランスの牛肉カルチャーについて語り、スペシャルな仔牛料理を味わうというイベントで、「フランスの仔牛本来の魅力に浸る夜」と銘打たれていた。

ル・セヴェロ・パリは1987年にパリ14区にオープンしたブラッスリーである。創業者のウィリアムさんは精肉師(ブーシェ)で、上質な肉を扱うことで知られる。同店で修業し、日本に帰国してから本場のステックフリット(ステーキとフライドポテト)を広めた店は数多い。六本木の祥瑞(しょんずい)、中目黒のセラフェをはじめ、セヴェロの牛肉にかける情熱は数多くのシェフに受け継がれている。イベント開始直前にセラフェに到着したウィリアムさんに、現在のフランスの肉事情について訊いた。まず、どんな牛を扱っていますか?

「ヨーロッパでは、牧草を食べて飼育されたグラスフェッドビーフが主流です。わたしたちが選ぶのは、農薬を使わずに自然に育った牧草を食べる牛です。仕上げに脂(サシ)を加えるという意味で少量の穀物(トウモロコシ、大麦、豆類など)を与えていますが、遺伝子組換えをした飼料や栄養剤を使用することはありません。完全放牧され、ストレスフリーな環境下で肥育された牛こそわれわれがもとめる健康牛です」

牛はストレスを感じると体内の尿酸値が上がるといわれる。また、ストレスが蓄積すると肉が硬くなり、臭みも発生する。屠畜も注意深く、十分な時間をかけておこなわれる。牧場から到着した牛をすぐ屠場に送るようなことはせず、新しい環境に慣らせてリラックスさせてから処理する。そうして肉質の変化を最小限にとどめるわけである。

ブロンド・アキテーヌ牛

ウィリアムさんがとりわけおいしいと絶賛するのは、ブロンド・アキテーヌ牛だ。

「フランス南西部のアキテーヌ地方で飼育された褐色のブロンド・アキテーヌ種は、肉がやわらかいのに脂肪分が少ないのが特徴です。セラフェでのイベントには、わたしが20年間、信頼をおいて取引を続けている畜産家、ジャン・マリッシャさんの牧場で肥育された牛をもってきました」

ウィリアムさんがもっとも重要視しているのは”牛にストレスを与えない”こと 。ジャン・マリッシャさんもおなじポリシーであるという。

「彼は、牛1頭につき約1ヘクタールの広さがある牧場で完全放牧しています。日光がしっかりとあたる場所の草を食べ、のびのびと育った牛は健康そのものです。シャロレー種、バザス種、リムーザン種などフランスにはたくさんのブランド牛がありますが、飼料の状態や質は畜産家によって異なります。なかには天候不順でやむを得ず輸入した質の悪い牧草や、徒長した牧草を食べて肥育された牛もいます。肉質を左右する重要なポイントです」

ウィリアムさん指差すのは、もっともおいしい部位というランプだ。複雑なうま味が重なりあうという。

フランスの仔牛本来の魅力に浸る夜

イベント「フランスの仔牛本来の魅力に浸る夜」では、ブロンド・アキテーヌ種の生後8カ月の仔牛が振る舞われた。牛のミルクだけで育ち、肉もうっすらとピンクを残した乳白色である。この日は、全部で5品のコース料理が提供された。

ひと皿め。仔牛肉をこま切りし、バジルとともにムースにし千葉県産のミニトマトで挟んだ「アミューズ・ブーシェ」だ。ミニトマトの凝縮感ある甘みと酸味が、仔牛のおだやかな香りを際立たせる。バジルのアクセントもいい。

ふた皿目は、尻の内側の部位を使った「タルタル・カジ・ド・ヴォー」だ。タルタルには、1センチ四方にカットされた青りんごが加えられ、和だしで煮込んだかきが添えられている。肉は80℃での湯煎をおこなっており、うっすらと表面が固くなっている。青りんごの清涼感ある歯触りと弾けるような弾力のある肉質とのコントラストが楽しめる。さらにかきを一緒に食べると、潮の香りが肉の味わいを引き立たせる。

つづいて3皿めは「ロティしたノア・ド・ヴォーのカルパッチョ仕立て」だ。内もも肉を、スライスした玉ねぎやにんじんといっしょにオーブンで100℃に保ち、1時間かけて蒸し焼きにした料理だ。塊肉のまま調理し、うま味を凝縮させた仔牛肉を口に入れて噛むと、筋繊維の力強さを感じた。

4皿目は「ココットで火を入れたコート・ド・ヴォーとそのジュ」。仔牛のコート・ド・ヴォー(骨付きロース肉)に焼き目をつけて、スチームオーブンで蒸し焼きにしている。ミルクのようなまろやかで豊かな味わいが口いっぱいに広がる。クセがなく、繊細な味わいだった。添えられた北海道産のビーツには柔らかい甘みを感じた。

コースの最後を飾ったのは「60時間真空調理したポワトリーヌ・ド・ヴォーのグリル」だ。60時間かけて真空調理したバラ肉の濃厚さとゼラチン質が残った柔らかさが格別だ。うま味の余韻も長い。付け合せのポム・ピューレは、ていねいに裏ごしされ、なめらかなテクスチャーだ。上にかかった黒トリュフが芳醇な香りを添える。

斎田シェフが手に持つのは「60時間真空調理したポワトリーヌ・ド・ヴォーのグリル」だ。真空調理で脂を閉じ込めたので肉の表面がテカテカと光っている。

これから目指すもの

最後に調理をつとめた斎田武シェフに、なぜいま”仔牛”をテーマにした会を開催したのかを訊いた。

「日本の畜産の現状を伝えたかったからです。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)発効によって、これまで海外に行かなくては食べられなかったさまざまな場所の牛肉が輸入できるようになり、消費者にとって選択肢が増えました。つまり日本の畜産農家は、厳しい競争にさらされています。だからいまは、国内における”持続可能な畜産”を考えなくてはいけない転換期だと思います。『健康な牛が健康な仔牛を生む』を日本でも実践したいと思い、仔牛にフォーカスを当てました。まずは、仔牛のおいしさをみなさんに知ってもらうことで、日本の畜産の現状とこれからについて疑問を投げかけたかったのです」

仔牛本来のおいしさに感動すると同時に、ウィリアムさんと斎田シェフの肉に対するこだわり、そして畜産の課題を知った夜だった。

セラフェ(Cellar Fête)**** 住:東京都目黒区下目黒1-3-4 ベルグリーン目黒 B1F
TEL:03-6420-0270

文・清水香里(GQ) 写真・八木竜馬、一井りょう

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March 02, 2020 at 07:05PM
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