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Sunday, April 12, 2020

「お肉券」実現させていいか? - 西日本新聞

 「国は自粛要請をしています。感染拡大を国のせいにしないでくださいね」

 国土交通省政務官である自民党衆院議員が新型コロナウイルス対策に関してツイッターに書き込んだ文章だ。読んであぜんとした。

 すぐに「国だけの責任にしないでくださいね」と微修正したらしいが、感染拡大に関する政府や与党の責任を追及する声が高まっているのを恐れ、責任逃れをしたい本音が顔をのぞかせたように見える。

 「国は自粛要請をしている。従わない国民が悪い」という論理は理があるように見えるが、例えばこんな例で考えてみよう。どこかの工場で大爆発事故が起きたとする。その工場の幹部が出てきてこう言ったと想像してほしい。「火気に注意するよう社員に指導していた。爆発を工場のせいにしないでくださいね」

   ◇    ◇

 感染拡大が止まらず、緊急事態宣言を出さざるを得ない状況に陥ったのは、初期段階における安倍晋三政権の危機感が薄く、対応が後手に回ったことに起因するのは明白だ。特に3月下旬の3連休前に、国民への自粛呼び掛けのレベルを最大級まで上げず「自粛の緩み」を招いたのは痛かった。「五輪の聖火が日本に到着するまでは危機的状況を認めない方がいい」との思惑があったのではないか。

 安倍政権が高い支持率を維持してきた理由の一つに「政権担当経験の豊富な自民党は、野党に比べて危機管理能力が高いはず」との評価があった。安倍首相が自己演出する「強いリーダー」像にも合致する。

 しかし今回のウイルス対応を目の当たりにして、国民は「安倍政権の危機管理能力は、本当はたいしたことないのでは」と疑い始めている。この国民意識の変化は、安倍政権の土台を揺るがしかねない。

   ◇    ◇

 こうした状況を見渡し、安倍政権とその周辺が次に打つ手を予想してみる。「国難である今、リーダーを中心に団結し、国民一丸となって乗り切るべきだ」と強調することで「非常時の政府批判は危機突破の妨害」という空気をつくろうとするのではないか。

 安倍首相に近いメディアや言論人たちが「国難」という単語を使いたがるのも、そうした戦略上にあるように見えてならない。

 しかし「政府が頑張っている時に、それを批判すべきでない」という論理は、二つの点で間違っている。第一に、政治という仕事は常に結果責任のみを問われるものなのだ。頑張るのは当たり前であって、評価の対象にならない。

 第二に、政府の「間違った頑張り」はむしろ害悪であるということだ。私も現在の状況は「国難」だと思うが、国難だからこそ、政府の努力の方向性が正しいかどうか、国民が監視して自由な批判をすることの重要性が増すのである。

   ◇    ◇

 新型コロナ対応の経済対策として、自民党の部会が「お肉券」を配布する案をまとめたが、さすがに世論の猛烈な批判を浴びて見送られた。これなどは健全な批判が間違った政策の修正を促した好例だろう。

 もし「非常時に政権批判は自粛すべきだ」と言う人がいるならば、こう聞いてみたい。「『お肉券』が実現しちゃいますよ。それでもいいんですか?」

 (特別論説委員・永田健)

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