雑誌「Sports Graphic Number」と「NumberWeb」に掲載された記事のなかから、トップアスリートや指導者たちの「名言」を紹介します。今回は箱根駅伝をめぐる3つの言葉です。
<名言1>
カアちゃんがね、「もういいからやめなさい」と叫んでいたのは聞こえました。
(徳本一善/Number Do 2013 Winter 2012年12月20日発売)
◇解説
各校が箱根駅伝で優勝、シード権入りを目指すためにはスーパーエースの活躍が不可欠だ。しかし多大な重圧を受けることで、まさかの結末を味わったランナーは多い。法政大学時代の徳本は、その象徴だった。
2002年1月2日、往路のいわゆる“花の2区”で悪夢が起きた。
「腓腹筋が切れたんです。一瞬、バチっていう聞いたことがない音がして。その音は今も、脳天にイメージとして残ってますね」
大会直前に痛めたアキレス腱を気にしつつも、5km過ぎに抜け出そうとすると肉体が悲鳴を上げた。キャプテンとしての責務を胸に、監督の制止を振り切ってでも走ろうとしたが、2km先で涙のリタイアとなった。
徳本は大学時代から“自分を表現する”タイプのランナーだった。茶髪にサングラス姿は異彩を放っていたし、自身でブログを運営するほどだった。しかし“出る杭は打たれる”の言葉通り、レース後、徳本のブログは一夜にして炎上した。
「だから当時はアンチ一色だった印象があります。まさに徳本祭り(笑)」
シード権を失った法政大。それでも翌年度の箱根予選会、後輩選手は前主将のスタイルを継承するかのように茶髪サングラスで登場し、見事本選出場をゲットしたのだ。
「正直、他人にはどう思われても良いんです。申し訳なかったのはやっぱりチームのみんなで、いくら謝っても謝りきれない」
徳本はこう話してもいる。日々を過ごしたチームメイトは、徳本の奥底にある熱いハートをしっかりと受け継いでいた。
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